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岩波講座世界歴史12 遭遇と発見 [Intellectual History]

遭遇と発見.gif
樺山紘一編
岩波講座世界歴史12 遭遇と発見 異文化への視野
岩波書店 1999年 xvii+274頁

構造と展開
- 遭遇と発見 異文化への視野(樺山紘一)
交流と比較
- 二つのインカ帝国像(染田秀藤)
- 『東方見聞録』とその読者たち(大黒俊二)
- ブレーメンのアダムと北方世界の「発見」(甚野尚志)
論点と焦点
- 古代ギリシア人のスキュタイ観(篠崎三男)
- 異人は中国人によっていかに描かれたか(武田雅哉)
- 東アジアからの地理的世界認識(応地利明)
- 中世中東世界から見たヨーロッパ像(杉田英明)
- イブン=ハルドゥーンと歴史の発見(森本公誠)
- 太平洋「探検」とメディア(山中速人)
- 人類へのまなざし(ロナルド・トビ)

* * * * * * * * * *

岩波講座世界歴史は最初1969年から71年という大変な時期に、全31巻で刊行された。そのとき大学院生だったにもかかわらず寄稿を依頼されたのが、樺山紘一、佐藤次高、川北稔である。1997年から2000年にかけて全29巻で新しい版が出た。かつての若輩執筆者は、編者へとまわる。

新版は、通史編とテーマ編にわかれる。このテーマ編がなかなか面白く、5「帝国と支配」、本書「遭遇と発見」、15「商人と市場」、19「移動と移民」、22「産業と革新」、25「戦争と平和」、28「普遍と多元」の7巻がある。個人的に一番面白いのはこの「遭遇と発見」であるが、それはどうも私だけではないようで、古書市場でもこの巻だけ入手しづらい。予約出版であるためおそらく刷った冊数は一緒なので、見る人は見ているということだろう。文化人類学者にとっても、有用なテーマである。

現在の人文学にとって「他者(性)」というのは一つのキーワードである。しかし本書の出た十年前はどうだったか。樺山は本書に先だって『異境の発見』(東大出版会)という中世における異文化の発見概論をものしている。小著ながら読みごたえのある本だが(ただし注がないので引用が難しい)、本書はその問題意識を敷衍したものでもある。自身の手の届かない範囲を適切な執筆者に委託するというのは、編者としてありうべき態度である。もちろん好き勝手やらせてはいけないのであって、その手綱の加減が難しいのだろうけど。

執筆者の過半を東西の中世学者が占めているというのも中世史に関心のあるものにはありがたい。編者の人選がよかったということである。甚野の論文は、日本語で読めるほぼ唯一のブレーメンのアダムに関する論文。中世の他者論や世界論は私自身も関心があるので、どこかで書いてみたいとは思う。特に北欧など、中世を通じてヨーロッパ世界の他者である。もちろんキリスト教化以降は中央と頻繁な接触はあるが、それでも異域と思われ続けていた。キリスト教世界であるにもかかわらず、異域。その中途半端さが、北欧の一つの特徴かもしれない。

講座新版が出た当時、これは旧版の補遺のようなものだと言われた。旧版は骨太の構造的通史が中心を占めていたのに対し、新版はテーマ論が多かったからであろうと思う。たしかに旧版は今でも参照すべき論文も収録されているし、私もゼミの準備をするときはよく引いた。流石に今は場所がなくて故郷の倉庫に眠っているけれども、赤茶けた紙をめくった日々は楽しかったことを思い出す。旧版は駒場の河野書店で一揃い5000円で購入した。当時はどこの古本屋に行ってもだぶついていた。いま、いくらだろうか。

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