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アルフレッド大王伝 [Sources in Latin]

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アッサー(小田卓爾訳)
アルフレッド大王伝
中公文庫 1995年 339頁

はじめに
序章 アルフレッド王への道

アルフレッド大王伝

解説
略註解
固有名詞 略解・索引
年表
引用・言及文献

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初期中世のGreatといえば、東ゴート王国のテオドリック(在位493-526)、フランク王国のカール(768-814)、ドイツのオットー(936-973)、デンマークのクヌート(1017-1035)、そしてウェセックス王国のアルフレッド(871-899)である。カール大帝とアルフレッド大王には、正史といってもよいラテン語伝記作品がある。前者はアインハルトの『カール大帝伝』であり、後者が本書『アルフレッド大王伝』である。

文庫版オリジナルで増刷もしていないせいか、本書の存在は意外に知られていない。しかし、底本は決定版であるスティーブンソンであり、注釈は最新のケインズとラピッジのものまで参照している。訳注者の小田は古英語学を専門とするが、大変力の入った作品である。テクスト翻訳部分は80ページでたいした量ではない。『カール大帝伝』よりは長いかもしれないが、読み物としては一瞬で終わる。固有名詞には違和感があるが、研究者は校本を手元に置くのでよいとしよう。中世に関心のあるものは、手元においておくべきであろう。幸いにして今のところ古書で安く手に入る。文庫といえどもよいものはすぐに一冊5000円といった気の触れたような値段がつくので、ほしいひとは早めに買っておきましょう。

アルフレッドは、ヴァイキングから国を護った救世主ということで、イギリス史上最も著名な人物の一人である。にもかかわらず研究は少ない。少ないというのは語弊があるかもしれない。論文はかなりある。アングロサクソン史を志すものであれば、だれもが一度は手をつけようとする。しかし、まとまった伝記的著作は意外なほどない。近年のものは、史料批判に問題のあるスミスと軍制史家のリチャード・アーベルのものだけである。サイモン・ケインズが筆をとるべきだろうが、私の知る限り、彼は近世以降の受容史を扱う長尺の論文をものしたに過ぎない。ジャネット・ネルソンだったかが、「アルフレッド王の伝記はなぜか書かれないか」といった論文を書いていたような。

『アルフレッド大王伝』は、ヴァイキング研究にとっても必須の史料である。にもかかわらず、正面から取り上げた研究は少ない。理由は、本伝記にプロパガンダの要素が強いからであろう。『アングロサクソン年代記』の情報のほうが信頼度は高い。それはわかった上で、『カール大帝伝』との比較で何かできないものかなとも思うが…。いずれも「国を護った王」をフィーチャリングしているわけだし。

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