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聖遺物崇敬の心性史 [Arts & Industry]

聖遺物崇敬の心性史.gif
秋山聰
聖遺物崇敬の心性史 西洋中世の聖性と造形
講談社選書メチエ 2009年 262頁

第1章 聖遺物の力
第2章 トランスラティオ(聖遺物奉遷)と教会構造
第3章 黄金のシュライン 聖遺物を納める容器
第4章 聖遺物容器のさまざまな形態
第5章 聖なる見世物 聖遺物/聖遺物容器の人々への呈示
第6章 聖なるカタログ
終章 聖性の転移


参考文献
図版典拠一覧

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著者はデューラーの専門家だと思っていたので、「西洋中世」と銘打った本書を書店で見つけてびっくりした。メチエというのは教養書かと思っていたが、そうとは思えないほど内容が詰まっていた。どの章も論文の一歩手前。学部生には難しいだろう。難しくていいのだけれど。

聖遺物崇敬は西洋宗教史の根幹をなす信仰行為であるにもかかわらず、日本語で読めるものはほとんどないのが実情である。青山吉信『聖遺物の世界』(山川出版社 1999年)と渡邉昌美『中世の奇跡と幻想』(岩波新書 1989年)くらいか。前者はイギリスの、後者はフランスの事例を中心としている。翻訳だとギアリか。本書はドイツかつ美術史家の手になる作品として、専攻二著とは趣を異とする。アンゲネントやベルティングの研究成果をふんだんに用いている。

歴史家が聖遺物崇敬に近づく場合、通常は聖人伝や奉遷譚のような叙述史料を手がかりとする。秋山ももちろんそうした作品も射程に入れているのだが、いかにも美術史家らしく、聖遺物箱というモノに目を向ける。聖遺物はフェティッシュなモノなのだから彼のアプローチが正当なのだが、歴史家はモノを避ける傾向があるので非常に新鮮に感じる。

一昔前なら、「これが美術史?」といぶかる向きが多かったかもしれない。絵画・彫刻・建築が対象だったからである。しかし中世人のメンタリティに立つならば、聖遺物を収めた聖遺物箱こそ最も身近かつ讃仰すべきものであった。美の概念は相対的なものなので(でなければ美学史などできはしない)、今の感覚をまず棄てるのが同時代のメンタリティを知る第一歩である。同時代人が価値があると判断したものが、その時代の「美」なわけだから。Peter LaskoのArs sacraという本は、こうした「小」美術を概観している。

参考文献には展覧会カタログがずらりと並んでいる。西洋史家でこうしたカタログを活用している人がどれくらいいるのか知らないが、とりわけドイツで出たものはどれもすばらしい。これとか。私なども画像を取り込んで講義でバンバン使っている。

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