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The making of polities [Medieval History]

Making of polities.jpg
John Watts
The Making of Polities, Europe, 1300-1500(Cambirdige Medieval Textbooks).
Cambridge: Cambridge UP 2009, xiii+466 p.

List of maps
Acknowledgements

1. Introduction
2. Europe in 1300: the political inheritance
3. The fourteenth century
4. The fifteenth century
5. Conclusion

Bibliographical notes.
Index

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補正予算さまさまの大層な政策ですな。博士号を獲得した学振PDは月額36万+16万+科研。若手の育成は結構なことだと思うけど、ある程度時間をおいて投資額に見合った成果が出たかどうかチェックしたほうがいいでしょう。経験的に言わせてもらえば、人文学は個人に対する投資額をあげることにそれほど意味はない。何もしないやつは何もしないんだから。文科省はこんなことに金を使うくらいなら、保育園に押されて空きが目立つ幼稚園制度の抜本的見直しでもしてくれんかね。

それはともかくこんなの頼んでいたっけなという本がたまに届く。以前予約していたものが知らないうちに出版されていたということである。当該シリーズはいくつか手元にあるが(たとえばこれとかこれ)、紙質が以前のものより若干よいような気がする。このシリーズは学部向けのテキストだと思うが、大学生ともなればやはりこれくらいの情報が必要だろうとは思う。正確な情報を持っていなければ議論なんてできないし、議論ができなければ到底論文など書けない。

本書の内容は中世後期の政治システムなのでわたしの専門とは全く関係がない。が、そのうち講義で中世後期も扱うことがあるかもしれないと思って、序論だけ目を通してみた。序論と言っても40頁を越えるので結構長い。要は、中世後期を、「衰退」とか「移行」といった枠組みで論じることをやめようということらしい。従来中世後期は、「社会経済的危機」(ペスト)、「戦争と無秩序」(百年戦争)、「国家の生成」(租税国家)という観点で論じられてきた。著者はこれらのヒストリオグラフィを丁寧にまとめ、その上で「構造」に注視すべきだとする。うーん、まるで樺山先生のようだ。

学部向けということもあって読書案内は大変充実している。ほとんどが英語のものだが、英語の参考文献だけでこれだけの範囲がフォローできるのはすごいということを実感する。英語帝国主義。とはいえ、この時代を概観するにあたって著者のワッツ自身が挙げているのは、フランスの著名なシリーズ「ヌーベル・クリオ」に収められた、ベルナール・グネとジャック・エルスによる14・15世紀の概観である。前者は政治構造を、後者は社会経済史的側面を扱う。ドイツに関しては英訳のない(!)ペーター・モーラフを参照することも勧めている。良心的。

北欧についてもそれなりの事例を挙げているが、著者が参考にしえた文献はおそらくかなり少ない。読書案内ではヘッレ編の概論をindispensableとしている。たしかに英語ではこれ以上の情報を得ることが困難なのだよね…。最近ブリルの「Northern World」によい研究書の英訳がいくつも入ってきているので、状況は徐々に変わっていくと信じているが。

著者については何も知らないが、オックスフォード大学のコーパス・クリスティ・カレッジのフェローらしい。専門はヘンリー6世の統治のようだ。英語はくせがなくて(少なくとも私にはそう感じられた)読みやすい。


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