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ヨーロッパと海 [Medieval History]

ヨーロッパと海.jpg
ミシェル・モラ・デュ・ジュルダン(深沢克己訳)
ヨーロッパと海(叢書ヨーロッパ)
平凡社 1996年 393頁

諸言(ジャック・ルゴフ)
日本語版によせて(ジャック・ルゴフ)



第1部 時間と空間の中のヨーロッパと海
第1章 パズルのように
第2章 地中海の先進性(アテナイからイタリア諸都市へ)
第3章 大西洋の登場(11-14世紀)
第4章 合流の始まり
第5章 出会いと分有
第6章 枠組みの突破

第2部 人間社会の中のヨーロッパと海
第7章 海で働く人々
第8章 船乗りのヨーロッパ共同体
第9章 見なれたイメージ
第10章 文化的側面 海を眺め、感じ、理解すること

結論 そして今は?

船舶関連用語
訳者あとがき
文献一覧
索引

Michel Mollat du Jourdin
L'Europe et la mer
Paris: Seuil 1993

* * * * * * * * * *

「叢書ヨーロッパ」はヨーロッパ5カ国の共同企画で、現地の監修はジャック・ルゴフ。日本語版の監修は故二宮宏之。鳴り物入りではじまったシリーズである。私など大学に入って間もなかったが、神田の三省堂でパンフレットを見つけ、これはすごいと興奮したものだった。

ヨーロッパでは20巻ほど出たのだろうか。これもその一冊。日本では残念ながら6冊しか出なかった。平凡社での刊行が頓挫したのち、ある有名出版社が残りを引き受けるという話もあったが、これも流れてしまった。残念なことである。

モラの狭い意味での専門は中世のノルマンディの海民であるが、本書はそれにとらわれることなく、古代から現代まで縦横無尽にヨーロッパと海の関係を論じる。バランス感覚のよさというか、、学識のたまものであろう。

海からの歴史はべつに網野善彦の特権ではなく、ヨーロッパにおいてもかなり以前から試みられてきた。バルト海、北海、大西洋、地中海、黒海という海に囲まれたヨーロッパ半島は、海の生活は決して切り離せない。史料の残り方と支配者への関心から歴史学において陸の論理が優越していたのは、これまた日本とは変わらないが、ヨーロッパで海洋史そのものは無視されていたわけではない。というのも、ブローデルを待つまでもなく、イタリア商業史が地中海史そのものであったため、とくに地中海沿岸諸国では地中海史の研究が積み重ねられてきたからである。ただし私の知る範囲では、網野のように民俗学に深く入り込んでいるようには見えない。

最近では海洋史そのものの研究書も出ている。地中海、北海、大西洋のものがあった。今後も増えるだろう。私の手元には、Barry Cunliffe, Europe between the oceans, 9000BC-AD1000, Yale UP 2008という、著名な考古学者による射程の広いものがある。カラー図版で美しい本。

1911年生まれの著者はブルターニュのレンヌ大学を卒業し、パリ大学で教鞭をとる。私の知る限り商業史と宗教史が専門であろうか。たしかルゴフはこのモラのもとで助手を少しの間やっていたような気がする。とすれば、このシリーズのたちあげにあたって、師の一人に執筆を願い出たことになる。こういうのを師弟愛というのかどうかわからないが、モラは当代随一の海洋史家であったので当然といえば当然か。

訳者については贅言は必要あるまい。日本でもっともできる、そして世界に通用する西洋史家のひとり。エクス・アン・プロヴァンス大学で博士号を取得し、翻訳書が出た時期、九州大学から東京大学に移ってきた。当時は日本語での著作も少なく、専門を越えてそれほど知られることはなかったが、その後破竹の勢いでフランス語、英語、日本語の論文を世に問い、『海港と文明 近世フランスの港町』(山川出版社 2002年)と『商人と更紗 近世フランス=レヴァント貿易史研究』(東京大学出版会 2007年)を上梓する。いずれも近世フランス史以外の人間が読んでも得るところが多い。
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