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ペルシア語が結んだ世界 [Medieval History]

ペルシア語が結んだ世界.jpg
森本一夫編
ペルシア語が結んだ世界 もうひとつのユーラシア史(スラブ・ユーラシア叢書)
北海道大学出版会 2009年 ix+252頁

序章 ものを書くことから見たペルシア語文化圏-その面的把握をこえて(森本一夫)

第1部 文献ジャンルから見たペルシア語文化圏
第1章 ペルシア語詩人伝の系譜-韻文学の隆盛と伝播(近藤信彰)
第2章 ペルシア語文化圏におけるスーフィー文献 著述言語の変遷とその意義(矢島洋一)
第3章 イスラーム法とペルシア語 前近代西トルキスタンの法曹界(磯貝健一)

第2部 地域から見たペルシア語文化圏
第4章 中央アジアにおけるテュルク語文学の発展とペルシア語(菅原睦)
第5章 18世紀クリミアのオスマン語史書『諸情報の要諦』における歴史著述 ペルシア語文献からの影響を中心(川口琢司)
第6章 清代の中国ムスリムにおけるペルシア語文化受容(中西竜也)
第7章 南アジア史におけるペルシア語文化の諸相(真下裕之)

語句解説
あとがき
図版出典一覧
事項・地名索引
人名索引
史料名索引

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ペルシア語を現在公用語(のひとつ)にしている国は、イラン、アフガニスタン、タジキスタンの三カ国。しかし前近代世界のユーラシアでは、広く用いられる広域使用言語であった。そのことは、「イスラーム世界」という言い方が、そこに内包される多様性を平準化させる危険性を訴えた羽田正もまた訴えている。現在のペルシア語は、アラビア文字を使っているものの、セム語派のアラビア語と異なり、インド=ヨーロッパ語族に属する。だからペルシア語研究者など欧米のオリエンタリストの中にはごまんといて、本書が主張する「ペルシア語文化圏」など当の昔に論じられているものだとばかり思っていた。実はそうではないらしい。

森本による「ペルシア語文化圏」に関する総論に続き、ペルシア語(を含めたユーラシアの諸語)の専門家による論文が続く。多くが手稿本に基づくオリジナルな研究であるが、地図・図表・系図がうまく組み込まれ、専門外のものでも興味深く読める。個人的に興味深かったのは、川口による歴史叙述の問題。西洋史家で歴史叙述の問題に取り組むものは意外に少ないが、同時代人の歴史意識と行動様式を知るためには不可欠の作業である。これは自戒をこめていっているのだが、残念ながらヴァイキングは史書を残していないのだよねえ。ルーン石碑に事績を残すものはいるのだけど…。

なお本書執筆者のうち何人かは、10月31日(土)と11月1日(日)に北海道大学スラブ研究センターで開催される次のシンポジウムにも参加する。
共同利用・共同研究拠点公募プログラム・シンポジウム「北西ユーラシア歴史空間の再構築 ロシア外部の史料を通じてみた前近代ロシア世界」(詳細はこちら

イブン・ファドラーンの訳注を東洋文庫から刊行したばかりの家島彦一を筆頭に、中央アジア史、イスラム史、ヨーロッパ史、ビザンツ史、ロシア史の専門家が、従来の一国史的・一言語圏的・一文化圏的縦割り研究で蓄積されてきた知識を、歴史史料という同一平面でいったん解放してみる試みである。どの程度成功するかわからないが…。

ところで編者は、話者6300万のペルシア語を、今は往時の勢威を失い、日本で専門に学ぶことのできる大学が2つしかないマイナー言語とのべている。…話者30万や400万の言葉を相手にしている者としてはなんと言えばいいんですかね。

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