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世界探検全史 [Medieval History]

世界探検全史.jpg
フェリペ・フェルナンデス・アルメスト(関口篤訳)
世界探検全史(上)(下)
青土社 2009年 323+356頁

はじめに

1.手を伸ばす 通路の最初の発見者、文化の採集から大いなる帝国へ
2.到達する 約1000年以前までの海洋の探検
3.躍動する 古代後期と中世における陸地の探検
4.跳躍する 中世後期の海路の転換と大西洋への進出
5.躍進する 1490年代の前方への大跳躍
訳者あとがき
原注
索引

6.世界一周 グローバルな諸ルート、1500年頃~1620年頃
7.連結する 世界規模の合流、1620年頃~1740年頃
8.突破する 世界の拡大、1740年頃~1840年頃
9.グローバル化 制限された水平線、1850年頃~2000年

訳者あとがき
原注
索引

Felipe Fernandez-Armesto
Pathfinders. A global history of exploration.
Oxford: Oxford UP 2006


* * * * * * * * * *

日本では『ミレニアム』だの『食べる人類誌』だの一般的内容をもった本ばかり翻訳されているので、ほとんどの人は知らないのではと思うが、このスペイン出身で英語圏で教鞭をとった著者は立派な中世史家である。英語で『コロンブス以前』という中世海洋史の基本書をだしており、私はそれで彼の名前を知った。すくなくとも上巻のかなりの部分が中世史。とりわけ15世紀における大西洋航海史を扱った第4章と5章は著者の専門であるため、叙述が精彩に富む。日本語で類書は少ないので、関心のある向きには参考になるだろう。

経済史家ジョーンズの著名な本に『ヨーロッパの奇跡』がある。近代ヨーロッパの持続的成長を論じた本であるが、中世史家であるフェルナンデス・アルメストはご不満のようである。『ヨーロッパの奇跡』に直接触れることなく、「「ヨーロッパの奇跡」に関する奇跡的なことは、その奇跡がそれほど長くは続かなかったことである」との皮肉を述べたあと、次のように続ける。

「私たち西ヨーロッパ人には、この大陸の、さらにはこの世界の過去と現在のあり方に先祖が尽力してくれた事実を好んで云々したがる風潮がある。しかし見方を変えるなら、西ヨーロッパ人はユーラシア大陸の歴史のくず(dregs)であり、彼らが居住している突出部はそこでユーラシアの歴史が干上がる沼地にすぎない。…しかし純粋に長期の見通し図で眺めるなら、ヨーロッパの西部地方は文化の大いなる伝達の受け取り側に終始していた。農耕と鉱山採掘、印欧語の到来、フェニキア人、ユダヤ人、ギリシア人の植民、キリスト教の到来、ゲルマン人、スラヴ人、ステップ地帯の人々の植民、アジアからの学問、趣味、技術、科学の受け入れ。以上はいずれも東から西に対して振るわれた影響の波だった」(199頁)。

本書の特徴は、季節風や海流のような自然の流れをうまく歴史の展開に組み込んでいるところだろう。海洋アジア史ではよく議論されるが、西洋史では珍しい。著者は地理学者と親交が深いようなので、そうしたところからヒントを得たのかもしれない。ただ北欧語やアラビア語の読み方はもう少しどうにかならなかったのだろうか。

数年前からか、日本でも本書のような雄大なパースペクティブを持ったグローバルヒストリーが盛んに翻訳されるようになった。わたしなど原著では絶対読まないと思うので、ありがたいことである。ただ、どういう客層がこの手の本を買っているのだろうか。歴史家はたぶんそれほど手に取らない。とるとすれば国際関係史や経済史といった社会科学系の専門家であろうか。


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