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ビザンティオンの光芒 [Medieval History]

ウラジーミルの生神女.jpg
清水睦夫
ビザンティオンの光芒 東欧にみるその文化の遺蹤
晃洋書房 1992年 281頁

はしがき
第1章 バルカンのキリスト教文化
第2章 「聖なるルーシ」の信仰の始まり
第3章 「第三ローマ」の都モスクワでの信仰
第4章 「建国千年記念碑」を遺す北都での信仰
追記
初出一覧

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『スラブ民族史の研究』(山川出版社 1976年)で著名な清水睦夫(1927-)によるエッセイ集。エッセイといってもタフな註で、かなり読み応えはある。もっともロシア語が読めなければ、註は何の意味もないんだが。

ソ連崩壊の翌年にまとめられたがゆえに、前書きと後書きは生々しい。軽い気持ちで読み始めたが、これはひょっとすると知られざる良書なのではないかと思えてきた。別に独自の見解が開陳されているわけではないが、スラブ圏の基本的な研究を咀嚼して詳密にデータをあげているし、そもそも、スラブ圏の宗教(キリスト教だけではない)について詳細に記したものは、非常に少ないからである。ルイバコフとか読んでみたい。私のように西方キリスト教世界しか知らないものにとって、東方キリスト教世界の知識は、西方世界の意味を相対化させるし、さらにそこに異教世界の知識が加われば、ヨーロッパ半島の宗教世界が立体的に見えてくる。いや、私はまだそういう段階ではないので、そういう予感がする、というだけ。

清水は、角田文衛の組織した古代学研究所の所員であった。この私設研究所そのものはすでに解体したようだが、『古代文化』という紀要はなお継続している。最近のものはよく知らないが、昔本郷の書庫にこもって調べていたとき、ユーラシア古文化に関心のあるものにはなかなか魅力的な研究論文が掲載されていると思った。西洋史学者で読むものは少ないかもしれないが(古代史はもちろん、古代から中世への変動期についてのものがある)、目次を繰るだけで世界はずいぶん広がる。

写真は、「ウラジーミルの生神女」。とても著名なイコン。テオトコスをロシア正教では、聖母とは言わず、生神女(しょうしんにょ)というらしい。

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