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中世歴史人類学試論 [Medieval History]

中世歴史人類学試論.jpg
ジャン・クロード・シュミット(渡邊昌美訳)
中世歴史人類学試論 身体・祭儀・夢幻・時間
刀水書房 2008年 x+400頁

まえがき

第1部 信仰と祭儀
第1章 中世宗教史は成立可能か
第2章 聖の観念と中世キリスト教への適用
第3章 西欧中世における神話の問題
第4章 中世の信仰
第5章 信経の良き効用

第2部 民俗伝統と知的文化
第6章 中世文化における民俗伝統
第7章 「若衆」と木馬の舞踏
第8章 取り込まれた言葉(採用と変形)
第9章 仮面、悪魔、死者

第3部 主体とその夢
第10章 「個人の発見」は歴史のフィクションか?
第11章 ギベール・ド・ノジャンの夢
第12章 夢の主体

第4部 身体と時間
第13章 病む体、憑かれた体
第14章 キリスト教における身体
第15章 十二世紀における時間、民俗、政治
第16章 待望から彷徨へ
第17章 未来の観念

訳者あとがき
原注
人名索引

Jean-Claude Schmitt
Les corps, les rites, les rêves, le temps. Essaus d'anthropologie médiévale.
Paris: Gallimard 2001

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ようやく読み終わった。知らないうちに、第44回日本翻訳出版文化賞なるものを受賞していた。

非常に重要な論文集。いかにもフランス的な、結論で何を言おうとしているのかよくわからないものも交じっているが、基本的に明晰。師ルゴフの問題関心を継承し、とりわけ民俗学的視点から、さらに深い分析を加える。夢の問題と未来の問題が、個人的な関心と重なっており、役にたった。

アナール派と騒がれた時代があったが、翻訳の多くは高名な歴史家の一般書であった。一般書など読んでも歴史家の何たるかはわからない。歴史家(に限らず学者)の本分はモノグラフであり、モノグラフの出来次第で学者としての価値は決定される。一般書は、モノグラフで積み重ねた見解の積み重ねに過ぎない。そういった意味で本書の出版は英断である。アナール派流行が世間で終息してのちようやく、ルゴフの『もうひとつの中世のために』、ルゴフ・チルドレンのシュミットの本書やミシェル・パストゥロー『ヨーロッパ中世象徴史』である。アナール派中世部門が何であったのか、いま冷静になって考えてもよい時期なのかもしれない。彼らが提起した問題群は、別に古くなったわけではないし、必ずしも解明されたわけではない。

ちなみに、もうひとりのチルドレンに、アラン・ブーローがいる。彼は日本でさほど騒がれていないが、法テクストやスコラテクストに基づいた非常に重要な仕事をしている。日本では『鷲の紋章』と『カントロヴィッチ』という、それ自身は貴重な成果であるけれども、ブーローの仕事全体からすれば枝葉にしか当たらないものしか、翻訳がない。この膨大なビブリオを見てもらいたいが、『黄金伝説』だとか女教皇だとか悪魔学だとかといった、誰もが関心を持つが、さりとて意外に専門研究のないテクストをうまく拾ってきている。いま、歴史家の立場から見たスコラ思想を書いているけれども、これは、哲学史家と歴史家が協力して翻訳すべきものだと思う。

本書はとても禁欲的な箱入り装丁。刀水は売る気があるんなら、もうちょっと考えたほうがいいよ。原著だって、白地に赤のシンプルなつくりだけど、あれは、由緒正しきガリマールの歴史叢書だからねえ。本はテクストだけで本たりえているわけではなく、装丁も含めて本。学術書は、下品にならず、地味にならず。訳は、問題なしとはしない。訳語がじじむさいという点はおくとしても、統一の取れていないものがある。

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