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ヨーロッパ中世末期の民衆運動 [Medieval History]

ヨーロッパ中世末期の民衆運動.jpg
M. モラ/Ph. ヴォルフ(瀬原義生訳)
ヨーロッパ中世末期の民衆運動 青い爪、ジャック、そしてチオンピ(Minerva西洋史ライブラリー16)
ミネルヴァ書房 1996年 vii+362+18頁



第1章 経済的拡張の社会的諸結果
第2章 「大市民」と「中層市民」の対立
第3章 貧困に対する反乱
第4章 民衆革命の五年間(1378-82)
第5章 旧い紛争と新しい紛争
第6章 結論の要約

訳注
解説 「あとがき」にかえて
参考文献
人名・地名・事項索引

Michel Mollat & Philippe Wolff
Ongles bleus, Jacques et Ciompi. Les révolutions populaire en France aux XIVe siècles.
Paris 1970

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部屋を掃除したため、何をどこにやったのかわからなくなってしまった。掃除などやるものではない。必要なものが行方不明になる一方で、余計なものを読んでしまう。

ミシェル・モラ(1911-96)もフィリップ・ヴォルフ(1913-2001)も、フランスのある世代を代表する中世経済史家。デュビー(1919-96)やルゴフ(1921-)よりも少し上の世代。皆がアナールアナールといっていた時代に、地道な実証研究を重ねた。しかし単なる実証史家ではなく、色々な芸も持ち合わせている。モラは『ヨーロッパと海』に見られるように海域史の泰斗であるし、ヴォルフは中世の言語問題や知識人についても良書を残している。非常に視野が広い教養人である。

「貧困と戦う中世」とでもタイトルを付け直せば、いま売れるんじゃないか。中世末期はヨーロッパ全土で戦争や騒擾が起こり、権威に対するプロテストもしばしばおこなわれた。私は著者の二人がマルクス主義にどれくらい親和性があるのか知らないが、分析に用いられるカテゴリーはまさにマルクス主義のものである。しかし本書のテーマの場合、そのカテゴライゼーションで十分に内容を論じることができる。データも豊富だし対象地域も広大なので、ある種の抽象化は必然である。ただし著者たちは、こうした社会騒擾を、単純に階級闘争には結び付けない。経済不況という中世後期を覆った特殊時代的枠組みから説明しようとする。そこはさすがに経験豊かな経済史家である。

初期中世に関心のある者にすれば、中世後期は異世界である。史料のあり方も生起する現象もまったく異なる。初期中世はどちらかといえば研究作法において古代史に近いが、中世後期は近代に近い。悉皆調査が必要な時代と選択眼が必要な時代である。だから前者が後者に、後者が前者にコンバートするときは注意を要する。概説ならとも書く、論文となると戸惑わざるを得ない。ただ北欧くらいモノが少ないと、どこをやっても一緒かなという気はする。

例によって北欧はガン無視である。フスがあるので当たり前だけど、東欧はきちんと論じられている。カルマル連合期デンマークの農民反乱やスウェーデンのエンゲルブレクトの乱は、全ヨーロッパ的に見ても興味深い事例だと思うんだけど…。確かに史料は貧しいけどね。それでも、本書は「ヨーロッパ史」といって恥ずかしくないだけの内容をもっている。往年の大学者の面目躍如。

ミネルヴァは採算が取れているのかどうか知らないが、西洋史のシリーズを出し続けている。おおかた京都系の研究者のものなので地産消費をみこんでいるのだろうか、えらいよな。今後ともぜひ続けてほしい。本書は良書だし訳も読みやすいので、中世、貧困、民衆といったキーワードに心惹かれる人は買って読んだほうがいいです。

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