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ヨーロッパ覇権以前 [Medieval History]

ヨーロッパ覇権以前.jpg
ジャネット・L・アブー=ルゴド(佐藤次高・斯波義信・高山博・三浦徹訳)
ヨーロッパ覇権以前 もう一つの世界システム(上)(下)
岩波書店 2001年 xxvi+264+23頁+vii+200+91頁

日本語版への序文
序文
凡例

序論
第1章 システム形成への問い

第1部 ヨーロッパ・サブシステム 古き帝国からの出現
第2章 シャンパーニュ大市の諸都市
第3章 ブリュージュとヘント フランドルの商工業都市
第4章 ジェノヴァとヴェネツィアの海洋商人たち

第2部 中東心臓部 東洋への三つのルート
第5章 モンゴルと北方の道
第6章 シンドバードの道 バグダードとペルシア湾
第7章 マムルーク朝政権下のカイロの独占(以下下巻)

第3部 アジア インド洋システム その三つの部分
第8章 インド亜大陸 すべての地に通じる道
第9章 海峡と瀬戸
第10章 絹の中国

結論
第11章 13世紀世界システムの再構成

訳者あとがき
原注
参考文献
索引

Janet L. Abu-Lughod
Before European hegemony. The world system A.D. 1250-1350.
Oxford: Oxford UP 1989

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近代世界システムが中世後期から筆を起こすのに対し、本書はそれ以前のモンゴルシステムに注目する。ウォーラーステインが論じなかった中世盛期にまで、世界システム論を押し広げる。世界帝国としてのモンゴル研究や開かれた海域としてのインド洋の研究は、日本でもかなり昔から言われているので、それほど目新しいわけではない。しかしヨーロッパ史の人間は自分の研究対象を他地域との関係で相対化できない人が多いので、その中和剤として本書は非常に役に立つ。訳者はイスラム史・中国史・西洋史の一流どころである。

ちかごろグローバルヒストリーなるものが流行っているらしい。大阪大学世界史講座のスタッフが中心となって紹介ならびに学会運営をおこなっている。なんのことはない、世界史の事なのだが、従来の世界史はヨーロッパ中心史観だから、そうではないアジアもアメリカも含めた本当の世界史をしようとの意気込みで、まことに正しい。

グローバルヒストリーはもとをただせばウォーラーステインの世界システム論にさかのぼる。世界システム論は基本的に経済システム論であり、かたちを変えたマルクス主義とまでは言わないが、私の感覚ではやや下部構造偏重である。それはおくとして、時折耳にするのが、世界システム論の起源はブローデルにあるという言説である。それはもちろん正しい。アフリカ研究者であったウォーラーステインはブローデルの地中海論にヒントを得て、世界システム論を構築し、フェルナン・ブローデル・センターまで立ち上げた。コレージュ・ド・フランス教授の地中海経済論を地域的にも時代的にも組織的にも拡大したわけである。しかし私見によれば、この二人の「歴史家」の間には大きな亀裂がある。極端な言い方をすれば、ブローデルは歴史家であるのに対し、ウォーラーステインは社会学者である。その差は、史料を読んで発言しているかどうかの一点に尽きる。歴史家にとってここはとても大事なところだと思うが、グローバルヒストリアンたちはどう思っているのだろうか。別にどっちがいい悪いというわけではない。学問のタイプの差である。

いまのところグローバルヒストリーは中世史にはほとんど何の関係もない。なんていったって中世のヨーロッパは世界システムにおいては中心ではなく周縁だから、自分の研究対象がいかにしょぼいかをあえて証明したいという人も少ないでしょう。中世初期の経済システムを知りたければ、こちらこちらでも読んでおけばよろしい。経済を含めた社会システムを知りたければ、こちらこちらでも読んでおけばよろしい。

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