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ビザンツ 文明の継承と変容 [Medieval History]

ビザンツ 文明の継承と変容.jpg
井上浩一
ビザンツ 文明の継承と変容
京都大学学術出版会 2009年 381頁

口絵
目次
序章 世界史のなかのビザンツ文明

第1部 都市の変貌 ギリシア・ローマ文明からビザンツ文明へ
第1章 ローマ都市とビザンツ都市
第2章 都市自治の終焉
第3章 「パンとサーカス」のゆくえ
第4章 都市からみたビザンツ文明の起源と特徴

第2部 皇帝・宦官・戦争 ビザンツ文明の諸相
第5章 皇帝 「神の代理人」
第6章 宦官 「皇帝の奴隷」
第7章 戦争 必要悪

終章 ビザンツ文明と現代

あとがき
参考文献
皇帝一覧表
索引

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著者はすでに日本のビザンツ研究の大御所である。本書のタイトルを見たとき、『生き残った帝国ビザンチン』と『ビザンツとスラブ』に続く三つ目の概説ですかと思ったがそうではなかった。その2冊が概説とするならば、本書は社会史である。

俗説にビザンツは停滞した社会だという。まあギボンの評価なのだろうが、近年の研究はそうは見ていない。とりわけ英米系の研究を下敷きにしていると思われる本書も、時代の変化には敏感である。初期中世に関心のあるものとして興味深かったのは次の指摘。「ビザンツ文明はローマ都市を引き継いだ。しかしながら、すでに述べたように、ビザンツ都市には自治制度は存在せず、「パンとサーカス」の市民生活も受け継がれなかった。都市景観もすっかり変わった。連続説は都市の名目的な存続に惑わされて、ギリシア・ローマ時代文明とビザンツ文明のあいだにある大きな変化を見落としているといわなければならない」(116頁)。7世紀の出来事であるらしい。先日7世紀の講義を準備していて、西欧では一体何があったのか悩んでしまったが、ビザンツでは大きな変化が起こっていたようである。もちろん7世紀はイスラム勃興の時代であり、「マホメットなくしてシャルルマーニュなし」の変化が始まった時期である。少なくとも社会経済史的側面は地中海世界という枠で捉えるべきなのだろうね。

個人的には第7章の戦争論が面白かった。ビザンツ皇帝は戦争をおこなわない支配者らしい。紀元千年前後に西欧など見ていると、戦争が日常茶飯事なので、こうしたビザンツのあり方は大変興味深い。

ずいぶん昔著者の集中講義を聞いた。ビザンツの史料論であったが、無知な若者にも非常にわかりやすかった。なぜわかりやすかったのかというと、井上はつねに西洋を念頭に置きながら、それとの比較でビザンツを語っていたからである。世良晃志郎の封建社会論を何度も読んだといっていた。井上のデビュー作は岩波からでた『ビザンツ帝国』だが、これは世良と対応する社会構造論である。

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