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十字軍という聖戦 [Medieval History]

十字軍という聖戦.jpg
八塚春児
十字軍という聖戦 キリスト教世界の解放のための戦い(NHKBooks1105)
日本放送出版協会 2008年 252頁

はじめに
1.第1回十字軍の召集
2.教皇の意図
3.十字軍思想の形成
4.第1回十字軍の諸侯たち
5.聖地国家の成立
6.民衆十字軍
7.12世紀の十字軍
8.第4回十字軍
9.十字軍の多様な展開
10.ルイ9世の十字軍
11.非東方十字軍
12.十字軍の終焉
あとがき
参考文献

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「ヨーロッパの歴史」という講義で半期北欧のマニアックな話をしたのだが、感想に「もっとフランスの話しもしてほしかった」とあった。フランス科の学生だろうか。…シラバスに「北欧の歴史」と書いてあるだろうと言いたいところだが、やはり「ヨーロッパ」の歴史を話すべきだったかと反省もした。しかし各国史ではないヨーロッパの歴史はなかなか難しい。全ヨーロッパ的な問題は限られているからである。十字軍こそ話すべきテーマだったのかもしれない。というわけで、次回に備えるべく、十字軍の本をあれこれとほじりだして読んでいるのである。

読み終えて思ったが、本書は、橋口倫介『十字軍』(岩波新書)やジョルジュ・タート『十字軍』(創元社)を読んだ後に紐解くべき本である。概論を目指しているわけではなく、あるところは簡略であるところは詳細である。おおよそ著者の研究関心のあるなしに従って、頁配分をしたのかもしれない。

意外なことに、日本語で読める十字軍の研究は少ない。頻繁に目にするのは、橋口倫介、本書の執筆者、そして櫻井康人の名前くらいである。仄聞するところによれば、欧米で雑誌が刊行されるほど隆盛を極めている十字軍の研究も、真剣にやろうとすればなかなかに大変で、史料言語もラテン語だけではお話にならず、アラビア語はもちろんのこと、私にはよくわからない言葉で書かれた年代記なども必要であるらしい。シリア学の高橋はここで、「西洋史の人、もっと史料を読みましょう」(意訳)と言っている。

十字軍研究の不思議のひとつに、ジョナサン・ライリー=スミスの研究がいっこうに翻訳されないことがある。十字軍研究の古典にはアルファンデリやエルトマンがある。ライリー=スミスは、こうした古典的研究を批判的に継承しながら、現在スタンダードと思われる十字軍の入門書や概論を著している。彼は政治的もしくは経済的な観点からのみ十字軍を論じることの錯誤を指摘し、宗教思想のコンテクストに十字軍を位置づけるべきだという、そんなのあたりまえじゃんという議論を展開している。私の知る限り十字軍の研究というか十字軍そのものが毀誉褒貶のあるテーマである。19世紀から20世紀初頭にかけてきちんと思想のコンテクストの中で十字軍は論じられていたはずだが、十字軍に対する肯定的評価はそれがイスラムに対する反発につながるということから、思想という参照軸を除いた研究が増えた。ルゴフなどは、十字軍がヨーロッパにもたらしたものなどイチジクだけだ、とどこかで書いていた。しかしそれはどう考えても言いすぎであろう。十字軍運動がヨーロッパにもたらしたインパクトは計り知れない。

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