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歴史テクストの解釈学 [Medieval History]

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佐藤彰一編
歴史テクストの解釈学 針路、解釈実践、新たな諸問題
名古屋大学大学院文学研究科 2009年 245頁

開会の辞(佐藤彰一)

- 中世初期の法テクストの「考古学」 『サリカ法典』(エチエンヌ・ルナール/加納修訳)
- カロリング期の聖書注解書(スミ・シマハラ/小澤実訳)
- 東方キリスト教圏における聖人伝と翻訳(戸田聡)
- 語りに変容する文書 グレゴリオ・ディ・カティーノとファルファ修道院の文書庫(クリス・ウィッカム/佐藤彰一・小澤実訳)
- マルクルフ書式集の二文書(第一書12番および13番)の年代を確定する アファトミーの変遷に関する若干の考察 (加納修)
- メロヴィング朝期の文書における刑罰条項とその意味(佐藤彰一)
- 11世紀モンテ・アミアータ修道院における紛争決着と文書実践(西村善矢)
- カロリング諸王ならびにオットー朝皇帝に対するスカンディナヴィア人のコミュニケーション手法(小澤実)
- テクスト生産者としての中世の公証人(フランソワ・ムナン/西村善矢訳)
- ビザンツ世界におけるイメージ、メタテクスト、テクスト(レズリー・ブルベーカー/杉山奈生子訳)
- テクストと間テクスト性 ドゥオダの『訓育書』(レジーヌ・ル・ジャン/佐藤彰一訳)

結論(佐藤彰一)

Shoichi SATO ed.
Herméneutique du texte d'histoire: orientation, interprétation et questions nouvelles
Nagoya: Graduate School of Letters, Nagoya University, 2009

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2009年3月8日と9日の二日間にわたって、東京国際フォーラムで開催された研究集会の報告書。前半は英語とフランス語の原稿、後半はその翻訳である。当日も両方の原稿が会場で配布されたが、報告書に収録するにあたって、ほとんどは増補改訂を施している。西洋中世に関わる文書テクストとそのコンテクストの関係を扱えばいいというゆるい縛りなので、報告内容は多岐にわたる。

外国人の著名研究者が日本を訪れることはしばしばあるが、通常は単独である。このシンポジウムのように、同時に6人、それも新鋭と斯界の領袖が顔をそろえることなど、そうあることではない。資金力、質の高いスタッフ、そして組織者の豪腕が必要となる。このシンポで重要なのは、日本側からもほぼ同数の報告者を立てたということ、そしてその中に組織者自身も含まれているということ。なぜか日本でこの手のシンポを開くと、司会だけして発表をしない組織者(でもなぜか報告書では編者となる)が当たり前のようにいる。テクストに即した個別報告が出来なくなった段階で、その人は研究者としては投了宣言を出しているに等しいのだが。

収録論文はすべてモノグラフである。外国人のものは、若干一般性の高いものもあるが、それでも日ごろ馴染んだテクストをテクスト研究、つまり当該テクストの生成とその社会的機能という観点から読み直している。仮に今はやりの史料論がレオポール・ジェニコの言うように個別的な「史料の生命」に目を向けているならば、テクスト論はすべてのテクストに共通して伏在すると想定される「テクストの論理」に意識を傾注している。それぞれは目指すところが違うのでいっしょくたにはできないが、アプローチの仕方、少なくとも歴史テクストからデータを読み取ろうとするその初発行為においては、同等の能力を歴史家に要求する。

この論集の論文を見る限り、歴史学は、テクスト研究をベースとする「人文学」であるように思われる。しかしこちらのPDF資料を見ると、歴史学は「社会科学」となっている。歴史学はもちろん人文学と社会科学の双方の側面を備えているのだが、どちらかと言えば人文学であると思っていた。人文学の基礎は文献学で、その下に個人の感性を論じる文学、過去の事実を確定する史学、一般論理を追求する哲学があり、その下位区分に、たとえば史学であれば、一般史、美術史、思想史、音楽史、文学史…といった対象テクストごとの制度枠があると思っていた(もちろんこれは大まかな枠で、世に出ているほとんどの研究は何らかの意味でそれぞれの枠を越境している)。わたしが間違っているのか、それともこの資料を用意された方がちょっとナニがアレなのか。…だって文献学つまりテクスト研究を踏まえる必要がなければ、マルクスやウェーバーやウォーラーステインだって歴史家になるでしょ。でも通常は彼らを歴史家とは呼ばない。彼らは歴史家が発見した事実を出発点として通時的な社会理論を練り上げたのであって、いうなれば歴史社会学でしょう。


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